2013年7月 6日
とりいくぐるについて
鳥居とは、人間界と神さまの世界との結界、入り口なのであって、一種の門なのだと、調べたら書いてあった。
ただこの奉還町の西の端、NAWATEにある4つの鳥居は、特に何かと何かを区画したものではない。単にモニュメントとして今は存在している。かつては小さな稲荷がそこにあったけれど今は近くの神社に合祀され、ご神体の類いはもうここに残っていない。鳥居をくぐっても、そこはまだ人間界のままだ。しばらくのあいだ空き家だったNAWATEに最初に足を踏み入れたときは、鳥居のところには何やら色々とうずたかく積まれていて、くぐることはできなかった。しかし建物のいたるところにかつての住人が生活していた痕跡が強烈に刻まれていた。建物をぐるりと回って見てみると鳥居の先には、ご神体が抜け、埃をかぶった小さな祭壇があった。
そもそも奉還町というのは、その街自体にぐっと生活臭のようなものが染み付いている街だ。平日が一番、人通りが多い。未だに現役で魚屋さんだったりが機能している。NAWATEの一角にも八百屋さんがずっと昔から入居している。そこには自転車に乗った近所の人がやってきて、その近所の人というのは大体がおじいさんかおばあさんなんだけど、今日もいいお天気じゃね!などと世間話をひと通りした後、大根なんかを買って家路に着く。奉還町とはそういう街だ。
僕らはこの街にゲストハウスを作ることにした。
昔はお肉屋さんで、建物の真ん中に鳥居がある不思議なこの建物を、NAWATEとして生まれ変わらせて、そこに遠方からの旅人を受け入れる宿、僕らのゲストハウスが入居する。
そもそも鳥居のある建物なんて超クール!だとか、家賃が(相場と比べて)むちゃくちゃ安いやん!とかそういうところがきっかけだったけれど、この奉還町にゲストハウスができるということは、結果的にとても良いことなんだと思う。
旅行をして、その地方の名物の団子かなんかを食ったり、遊園地、美術館、はたまたオサレに見えなくもない感じのカフェとか、そういうもに触れる感動も確かにあるけれど、その街の日常に少し触れてみるのも面白いはず。奉還町にはそんな面白さがあるんだと胸を張って言える。
正直なところ、NAWATEの建物自体はもうどうしようもないほどボロい。おまけに僕らには金はない。スタイリッシュだとかクールだとかドープだとかそんなものはない。2階の黒いむき出しの梁や、壁の謎の落書き、日に焼けた引き戸もそのまま残すことになる。そして予算の都合上、塗り替えもできていない古びた鳥居をくぐって、建物に足を踏み入れることになる。
僕らはこの街にゲストハウスを作ることにした。
岡山という地方で、そこのさらに昔からある古い街で。僕らが街の鳥居になりますよなんてことはクサいので言えないけれど、どこか遠くから来る人たちと、この街とが出会う場所にNAWATEやこのゲストハウスが担えればいいと切に願う。
みなさん、鳥居をくぐりにきてください。僕らはいつでも待っています。